にんじん From 耕す 千葉県木更津市

Why Juice?の素材であるにんじんは、千葉県木更津市にある「耕す」さんから仕入れています。この少しかわった名前の農場。2010年から始められた、ま新しい農場です。

東京を車で出発して、約1時間。海の底のトンネル、アクアラインを出ると、さっきまでの工業地帯とはうってかわって、もうすっかり森の中でした。

「耕す」がある場所は、もともとは20年前に閉鎖された牧場跡地。地元の方により維持管理がなされていたものの、面積があまりに広いため大半は草が伸び放題の荒れ地になっていました。もちろん畑の区画もなく、ちゃんとした野菜を作れる土の状態でもない。

プロの農業指導者による「俺だったらやらない」という言葉にもめげずに、ここを開墾し農場にしたのが、農業生産法人、株式会社「耕す」の豊増洋右(とよますようすけ)さん、伊藤雅史さん、塚本篤史さんでした。

開墾、整備には時間がかかるけれど、この土壌が持つ潜在能力は高い。そう判断した耕すメンバーは、開墾へ。多少の農業経験はあったけれど、最初は失敗やわからないことだらけ。地元の指導者に教えてもらったり、勉強会や本、インターネットで学んだりと試行錯誤を繰り返したとか。というのも、この土地を「次の世代も使い続けられる農地」にしたいという思いから、循環型の有機農業で野菜を作ろうとしていたのです。

循環型の有機農業については、あとで説明するとして。(※1)まずは、にんじんのお話から。

※1 循環型の有機農業の話
「次の世代も使い続けられる農地へ」

おいしい野菜作りに一番大切なのは、土

今日は、春にんじんの収穫の最終日。すでに畑では、たくさんのコンテナが積み上げられています。私たちも、少しだけお手伝いを。ほんの少し力を入れて葉っぱを引っ張るだけで、気持ちいいほどすっぽり抜けるにんじん。シーズンの最終を迎えるだけあって、まるまるとしておいしそうなこと! 収穫してすぐにかじらせてもらいました。

甘い!……ような気がする? いや、むしろさっぱりしていてみずみずしい!? うかがうと、香りがいいといわれる「ベーターリッチ」という品種。このさっぱりした香りのよさがWhy Juice? の[Charge]や[Balance]のさわやかな甘さになるんでしょうか。

「でも、おいしい野菜づくりで一番大切なのは、品種ではなくて、土なんですよ。有機野菜のおいしさの秘訣は、土にどんな栄養をどんなふうに与えるかなんです。化学肥料はもちろん使わないので、カルシウム分のある牡蠣殻や木の粉であるオガコなど有機肥料で土に栄養を与えます」

時には、雑草だって畑の肥料となるそう。

「緑肥という、畑の肥料になる牧草のような草を育て、大きくなったら収穫せずに、土に混ぜ込みます。土の中の微生物がこの草を発酵、分解していくと肥料と同じような効果が出るんです。この有機物の肥料が、野菜を頑丈に育て虫や病気から身体を守ってくれるんですよ。そのため虫に食害されずきれいな野菜ができあがります」

そうして育った野菜は栄養価が高く、たくましく甘みの強い野菜になるのだとか。

たくましさは、おいしさ。健康に育つ環境があるから野菜がまっすぐ伸びる。健康に育った野菜は栄養価が高く、おいしくなるのですね。

年間通じて、15品目の野菜を育てている、耕す。他の畑でも、じゃがいもやなす、ズッキーニが鈴なりでしたが「うちの看板野菜は、やっぱりにんじんかな」。そう、伊藤さんが胸をはるのもわかるほど、畑に植わっているにんじんは生命力にあふれていました。

循環型の有機農業の話「次の世代も使い続けられる農地へ」

「耕す」の土地は、約30ヘクタール。東京ドームでいうと、6個分です。ここで、年間15品目の野菜と平飼いのニワトリを育てています。スタッフは、農業がしたくて転職してきた方や研修にきた方、地元の方など、だいたい10人前後。朝からの収穫を終え、出荷の準備で忙しそうに働かれています。

農場内を、豊増洋右さんが案内してくれました。

資源、えさ、燃料を循環させる有機農業

W:循環型ってなんですか?

豊:「資源の循環、えさの循環、燃料の循環というふうに、できるだけ再利用できるものはしているんです。たとえば、トラクターは、取引先のレストランから回収した天ぷら油を燃料にしています。ここって盆地みたいにくぼんでいるでしょう。南向きの斜面に、ソーラーパネルを設置して、太陽光発電事業も行っています。場内で民間世帯、約700軒分の発電を行っているんですよ。

W:ガソリンや電気にできるだけ頼らないようにされているんですね。ところで、あそこに高い草が生い茂った畑が見えますが、草ぼうぼうで大丈夫なんですか?

豊:「あれはね、ソルゴー障壁という栽培法なんです。草の壁の内側でナスを作っているんですが、ナスを害虫からブロックしてくれているんです。

W:むむ?どういうことですか?

豊:「ソルゴー(という植物)にアザミウマという害虫を食べてしまう天敵の虫が住んでいて、害虫をやっつけてくれるんです。

W:—そうなんですね。自然の均衡、循環ですね。

豊:「私たちは、“次の世代も使い続けられる農地へ”という思いを持って農業をしています。この土地は、自然界から借りているもの。できるだけ自然な状態で使わせてもらわないと。人からものを借りたらいつでも返せるようにきれいにしておくじゃないですか。それと一緒ですよね」

健康で強いニワトリから産まれた卵

W:なにやらあちらから、勇ましい鳴き声が聞こえてくるんですが…?

豊:鶏卵のためにニワトリを飼っているんです。元気がいいでしょう。餌には発酵飼料と農場で出た野菜くずを食べさせているんですよ。ちょっと鶏舎に行ってみましょうか。

W:おおーー、ニワトリがいっぱいいますね。

豊:約1600羽います。鶏舎という限られた空間に自然の仕組みを再現する、自然養鶏という方法で鶏を飼っています。生まれた月ごとに部屋をわけているんですよ。

W:女子校のクラスみたいですね。

豊:そう(笑)。鶏舎担当の者がいうには、部屋ごとに雰囲気が違うそうです。一羽ごとに見分けもつくらしいですよ。

W:へー!私には、全部同じに見えるんですが…。部屋の扉に貼ってあった「えさを食べない子がいる」というメモを見て、きちんと観察されているんだな、と感心しました。ところで、この鶏は何を食べているんですか?

豊:県内から集めてきたオカラなどを発酵させた“発酵飼料”です。これが未利用資源の循環ですね。あとは農場のにんじんや大根の葉などの野菜くずなどをあげています。ニワトリってけんかをするのでくちばしを削ることが多いのですが、うちではしていません。だから、固いえさが食べられる。固いえさは消化に時間がかかるから、ほかのニワトリと比べて腸の長さが7倍もあるんですよ。

W:7倍ですか!? 腸が長いとどんなメリットがあるんですか?

豊:しっかりえさを吸収して、おいしい卵を産んでくれるんですよ。割ると黄身がきれいな薄いレモンイエローをしていて、とてもおいしいんです。

W:黄身って、オレンジ色のものがおいしいのだと思っていました。

豊:「色は味に関係ないんですよ。オレンジ色にするために、えさに色素をいれると聞きますが、自然な卵はレモンイエローなんです。」

W:鶏舎ってくさいイメージがあったんですが、全然臭いませんね?

豊:そう、フンが臭いの原因になりますよね。うちは発酵床というシステムにしているんです。餌が発酵飼料なので、フンも分解されやすくすぐに発酵されるからサラサラになって臭わないんです。

W:なるほど。鶏舎の床も循環型なんですね。耕すさんの野菜や卵を買うにはどうしたらいいですか?

豊:毎週土曜日に朝市をやっています。月末の土曜は、月に1回のスペシャル“朝市PLUS+”として、オーガニックスクールやワークショップ、持ち寄りカレー選手権などイベントをしています。地元の方が多く来てくれているんです。子育ての相談をしあったりしている方もいて、ひとつのコミュニティになってきています。野菜はオンラインでも買えますが、できれば農場を見に、ぜひきていただきたいですね。

W:ただオンラインで買うだけでなくて、実際に見にきて体感して、納得してから買い物をする。生産する人と消費する人がつながって、続いていく、これもひとつの循環。大切にしたいことですね。

耕す
千葉県木更津市矢那2505
0438-52-0470
http://www.tagayasu.co.jp

  • 写真:白井亮
  • 取材・文:髙橋紡
  • スタイリング:田中美和子